民法なエブリディ 不法原因給付

【登場人物】
鼠田三ッ樹 A
ありす B
鼠田実似子 三ッ樹の妻
【物語】
鼠田三ッ樹と実似子夫婦は、お正月を迎え、パレードにアトラクションにと引っ張りだこ。
今日も一日中、歌って踊って、ようやく閉園時間を迎えた―。
ありす:三ッ樹、やっと会えたわね。
私はずっとお茶会だったでしょ。
本当に待ち遠しかったわ。
三ッ樹:ありす、僕もだよ。
年中、カミさんと作り笑顔で一緒だろ。
もういい加減、うんざりだ。
それに引き換え、君はなんて茶道具、いや、なんてチャーミングなんだ!
ありす:三ッ樹、嬉しいわ。
でも、実似子にバレたら大変だわ。
私たちの関係もそろそろ潮時かと思うの。
三ッ樹:ありす、なんてことを言うんだい。
そうだ。僕らの関係を続ける証として君にフェアリーテイル・ハウスをプレゼントしよう
ありす:あれはシンデレラのお家じゃないの?
三ッ樹:いったい誰の稼ぎであれが建ったと思っているんだい?
登記をみれば僕のものだってわかるよ。
ありす:まぁ三ッ樹、ありがとう!
とっても嬉しいわ!!
こうしてフェアリーテイル・ハウスは、ありすにプレゼントされた。
ところが、三ッ樹はなかなか登記を移転しようとしない。
ありす:三ッ樹。いつになったら登記を移転してくれるの?
昼間はシンデレラに使わせてるでしょ。
ちゃんと私の物だって登記をしてくれなきゃ。
三ッ樹:えーと、そのぅ。
やっぱりその話はなかったことにしてくれないか。
ありす:ええっ!?何を言い出すの。
引越しもしたのに、今更、ダメだなんて云わせないわ!!
【問題】
Aは、配偶者がいるにもかかわらず、配偶者以外のBと不倫関係にあり、その関係を維持する目的で、A所有の甲建物をBに贈与した。
民法の規定および判例に照らすと、A名義の登記がなされた甲建物がBに引き渡されたときには、Aは、Bからの甲建物についての移転登記請求を拒むことはできない。(H25-34)
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正解】 「×」
ありす:まぁ!なんていうことでしょう。
三ッ樹が移転登記請求を拒めるなんて!
さくら:フェアリーテイル・ハウスのプレゼントは、 不倫関係を維持する目的でされたものですよね。
ありす:そんなにハッキリ云われたら、身も蓋もないけど。 そうも言えるわ。
さくら:そのような贈与は、公序良俗に反するものとして、 無効です(90条)。
したがって、ありすさんは、フェアリーテイル・ ハウスに関し何の権利も取得せず、三ッ樹さんは、 移転登記請求を拒むことができます。
ありす:そんな…。 じゃあ、建物はどうなるの?
さくら:それは法律上の原因がなく得た利得ですから、 三ッ樹さんに返還しなければ なりません (703条、704条)。
ありす:だいたい三ッ樹も同罪なのよ。
それなのに、私は建物を返還しないといけない とか、変じゃない!?
さくら:確かに不法な原因で給付した者は、不当利得を 理由にその物の返還を請求することができません(708条)。
自ら不徳な行為をしておきながら、無効を理由に 返せというのも厚かまし過ぎますからね。
でも、それは完全に「給付」したと言える場合の 話です。
もともと不法な原因による給付を認めるべきでは ないからです。
ありす:でも、建物の引渡しまで受けたんだから、 「給付」があったんじゃない?
さくら:既に登記された建物については、引渡しに加えて 移転登記までしてはじめて、708条にいう「給付」があったと されます(最判S46.10.28)。
建物の引渡しだけでは、「給付」とはいえませんね。
ありす:あ~ぁ。フェアリーテイル・ハウスのプレゼント だなんて、夢みたいなことを本気にした私が 馬鹿だったわ。
さくら:さぁ、物語のように、そろそろ夢から目覚め ましょうか。
きっとお姉さんがお待ちかねですよ。
声を掛けられた、ありすは、むくっと起き上がると、夕日を浴びながら 土手に向って走っていきました。
【条文】
(公序良俗)
第90条 公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。
(不当利得の返還義務)
第703条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
(悪意の受益者の返還義務等)
第704条 悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
(不法原因給付)
第708条 不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。
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