【登場人物】
金田如雲 A
伊藤明弘 B
【物語】
スポーツカー好きの如雲。
新しく手に入れた愛車・銀河3号を試乗すると、満足そうに降り立った。
如雲:やぁ、明弘。
どうだい。わが銀河3号の偉大な走りをみたかね。
明弘:この間は、エンジントラブルで乗車を延期するって言ってたくせに。
如雲:これが我が技術重視の誇り高き結実。
偉大な遺訓の貫徹とも言えるな。
そういえば、君のとこのスポーツカーは、まだ開発途中だったよね。
明弘:。。。
如雲:なんならこの銀河3号を譲ってやってやるぜ。
明弘:もうその手には引っかからないから。
譲るなんて、どうせ口先だけだろ。
こっちはわかってるんだ。
如雲:いやいや同胞。
俺の顔写真でも掲げて、乗ってくれたまえ。
(君が乗るわけがないから、言うんだけど)
明弘:君が考えていることはわかっちゃいるけど、そこまで言うなら、銀河3号を俺によこしてもらおうか
【問題】
AがBに「自動車を譲る」と真意ではなく言ったとき、Bはその言葉が真意ではないと知っていても、AからBに自動車を譲り渡す義務が生じる。(H8-27)
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【正解】「×」
明弘:ふーん。
如雲氏が銀河3号を僕に譲渡する義務はないってことか。
さくら:如雲さんは、自動車を譲る気がないのに、「自動車を譲る」と言ってますよね。
これは、内心の意思に反することを知りながらした意思表示ですから、心裡留保にあたります。
明弘:心裡留保!?
まるで狸(タヌキ)みたいな字だね。
さくら:心裡留保の「裡」とは、ウチという意味で、真意は心のウチに留め置くということですね。
相手方は、その真意がわかっているとは限りませんから、心裡留保は原則有効とされます(93条本文)。
つまり、「譲渡する」と意思表示をすれば、そのつもりがなくても、そのとおりに義務が生じます。
明弘:でも、今回は譲渡する義務はないわけでしょう。
さくら:はい。
心裡留保の相手方が、その真意を知っていたか、または知ることができたときは、例外的にその意思表示は無効とされます(93条但書)。
このような場合まで、意思表示を有効にする必要はないからです。
明弘:僕は、如雲氏が銀河3号を譲る気がないってわかっていたから、如雲氏の「譲渡する」という意思表示は無効だってことか。
さくら:そのとおりです。
ですから、譲渡する義務も生じないということになります。
明弘:もともと、エンジントラブルで乗車を延期すると言い出したときから、変な気がしてたんだ。
やっぱりタヌキは狸だ
【条文】
(心裡留保)
第93条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。